現場労働者のモチベーションが消え、サービスの付加価値が消える時
立教大学内の書店で、「本屋でんすけ にゃわら版」というフリーペーパーを書いている人の退職エントリーが話題になっていた。
後期の教科書販売とともにリニューアルオープンしたために、スタッフは教科書販売が大事!丸善キャンパスショップ事業部の本部はかっこいいリニューアルが大事!という食い違いが発生した。
店の面積が半分以下になってただでさえ教科書を置くスペースがないのに『洋書がいっぱいあった方がかっこいい』という理由で洋書の棚が3スパン。
教科書や毎年かなり売れる簿記のフェアを置くはずだったイベントフェア台も全部洋書。
『教科書は教科書販売中に買ってもらえばいいし、店には置かなくていい』という指示だった。
書店リニューアルに伴い売り場は縮小、大学の書店なのに教科書を売ろうとしない学生サービスに反する売り方を提示する書店本部(大学ではなく丸善に委託されているらしい)と、その方向性の違いにより退職するとのこと。
以前、文春オンラインの記事でも紹介されていたフリーペーパー「本屋でんすけ にゃわら版」
以前、文春オンラインの読書系記事でもこのフリーペーパーは紹介されていて、今ではリニューアル前の書店の雰囲気も分かる良い資料だと思う。
僕は漫画を含めて本を読む人間ではないが、ちょい前にこの記事で、このフリーペーパーの存在を知った。
この記事では、僕が大学の時(15年以上前)、商業総論という講義のテストで苦戦した「ECサイトの普及に対して店舗はどう対応すべきか?」という問いの答えになるのではないか、と思って少し覚えていた。
(しかし、フリーペーパーというクリエイティブな手法で本屋、本の販売業界に貢献していた人がアルバイトであったことに驚いた。)
空間差別化というネットショップの対抗手段
ネットショップの最大の弱点部分の特徴は「空間差別化がWebデザインの都合上、実店舗に劣る」であり、実店舗商売はそこで勝負ができると思っていた。ただ、それが何かは当時の僕では分からなかったし、この記事を見るまでは「結局無理じゃね?」と思っていた。
(ちなみに、僕はそのテストで不可をもらって、次年度で取り返した。いや、この問いだけで不可になったわけじゃないと思うけど)
この、ただのポップではない、店舗によるフリーペーパーのようなミニコミ誌系は、その答えになるのでは、と記事を見た時に思ったのだ。
この空間差別化として本との出会いを広げようとする試みは非常に興味深かった。
民間業者委託の悲劇:リニューアルは経済合理化の手段のため?
売り場の縮小や教科書販売の縮小のような話があったので、売上や儲けなどの経済合理性を最大限に優先した結果かな、と思った。
リニューアル前、文春オンラインのこのフリーペーパーを紹介した記事には下記のような記述がある。
学校内の書店らしく、品揃えは、語学書・資格書が大きな面積を占めている。4月・5月は、各学部で指定された教科書も多く扱っており、学生や職員は、1割引で本が買える。
上記の退職エントリーと比較すると、だいぶ雰囲気が違うと思う。
学内にありながら、値引き販売される教科書を販売しないのは経済的かどうかは不明である。
おそらくは、旧店長の苦労は想像を絶すると思う。
学校は儲け主義ではいけない
学校法人は性質上、儲け主義ではいけないという理由から税金等の優遇制度を受け、助成金などの優遇策も受けている。
これがもし「慈善事業ではない」という話が、内部から出てくるのであれば「じゃあ、税金の不正だね」と、言わざるを得ない。
委託された民間業者でも、その学園内の必要事業としての書店販売で、儲け主義を貫くならそれはリスクを背負う、という良い事例だと思う。
現場のモチベーションが消える時、クリエイティブも消える
上層部が数値だけをアテにした、消費者となるお客様の行動を無視した正論を吐き、そういう層に取り入りたい社内での自己アピールの得意な人が支配的な企画を強力に実行していく。
そのたびに現場は乱れ、モチベーションは削がれ、現場発の献身的なクリエイティブは消え、結果としてサービスやその付加価値が消えていく。
もう何度も、こういった話は聞いたと思う。実際に体験した人もいると思う。
お客様の満足度は、支配・コントロールできない
「結果として売り上げ・利益が出ればいいじゃないか」という話もあるかもしれない。
ただ、今まで様々な産業・サービスで語られてきた「ネットサービス普及に伴う、オフライン型サービスの収益低下」という話は、こういう付加価値を削り続けてきた、積み重ねの結果ではないかと思えてきた。
「ネットは便利だから、店舗で買わずにネットで買おう」
ではなく、
「こんな商売をする会社は信用できない、それならもうネットで良いじゃないか」
という形だ。
「お客様の満足度」はKPIで数値表現できず、管理・支配はできず、また、作り上げることもできない、ということなのかもしれない。
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